誰も幸せにならない空想肴ゲームの話


大学生の終盤も終盤といった辺りの時期に数週間だけブログを書いていたようなことを突然思い出した。


僕の出身地である青森県むつ市は雪国であるため小学校にプールがなかった。(冬に凍ってしまうからという言い伝えが罷り通っていたが、今思えば冬には水を抜けばいいだけだと思う。)


そして京都府京都市に越した10歳のタイミングで僕は“水泳”の授業を初めて知り、以来14年間、未だにクロールは以ての外、海に行った際などに皆がおどけた顔で泳いでみせる犬かきの正しいフォームも習得していない。


小学生の夏休みの間は週に1回“めだか教室”という-25メートルを泳ぎ切れないメダカちゃんたち-が集まる強制参加型強化合宿の一員となったが、日に日に同級生達がカエルに成長していくのを横目に、僕はメダカちゃんのまま24歳になってしまった。



未だに25メートルを泳ぎ切れないメダカちゃんの僕だが、インターネットの海を泳ぐことに関しては長けていて、インターネットの海を泳ぐことをやめてしまったら死んでしまう、言わばインターネットマグロなのだ。


以前、「1ヶ月1万円生活」というテレビ番組のBGMは誰が歌っているのか?という話になった際に、周りのインターネットメダカちゃん達は【いきなり黄金伝説 1ヶ月1万円生活 BGM】などと検索していたが、インターネットマグロである僕は【マネマネマネ】の6文字で片付けたという逸話がある。速度が違うのだ。


そんなインターネットマグロ(又の名をインターネットトビウオ)である僕でさえも、1年強前に開設した自身のブログを見つけられず困っていた。


大学生終盤(4回生の10月〜3月を指す)は4年間のイタかった時期やイキリ散らかしていた態度を全てエモーショナルという魔法の言葉に変換して発散していた時期だ。

エモーショナルをそのままブログに発散するのは飲酒運転よりもキケンなモノで、本文内に大学名やサークル名、ましてや実名なども平気で書いてしまう。

これでは全国のライバルとも言えるインターネットマグロ(又の名をインターネットトビウオ)達のパトロールに引っかかり、もう既に笑い物にされているかもしれない。どうしよう。


なんとしてでもこれを阻止したい僕は、泳ぎに泳いだが、一旦泳ぐことをやめ、「何故このブログを書こうと思ったのだろうか」というところに立ち返った。

財布や鍵を無くした時に「最後まで持っていたのいつか覚えてる?」と聞かれるのと同じだ。

財布や鍵を無くした時は「そんなことは無くしたことに気づいた当初に考えているのでお前は黙っておけよ」と思うが、今回は 幸い、自身のブログのリンクを忘れた時であったので「そんなことは自身のブログのリンクを忘れた当初に考えているのでお前は黙っておけよ」と自分で自分に苛立つことはなかった。


そしてブログを開設することになった原因を必死に思い返した。


「思い出した、しいきともみだ。」


大学4回生の冬頃、僕の財布のは学生史上最大の寒波を迎えていた。

その寒波を乗り切るために、コンビニの夜勤のアルバイトを必死にしていた。

僕が働いていたコンビニ夜勤のアルバイトは、22時に出勤して、23時までにフライヤーなどの清掃を終え、1時まで休憩し、入荷された商品を並べ終わるのが2時、そこからオーナーが出勤する朝5時までバックヤードでインターネットを泳ぐという勤務内容だった。

意欲的に参加していたので気づかなかったが、この夜勤中のインターネットサーフィンは、かなりスパルタなコーチが開いた“メダカ教室”であったとも言える。

その講習の一環で僕はロックバンド My Hair is Badのボーカル椎木知仁のブログと出会うことになる。


ご存知の方もいるとは思うが(初投稿のブログでこの文章を使うのは相当キモいが)マイヘアの楽曲はボーカル椎木の“女々しさ”が最大の特徴ともいえる。

「元カノが僕のこと犬みたいって言っててん」とか平気でそんなことを言ってしまうのだ。

そんなボーカル椎木のブログは基本的に毎日の記録を短文で記していて、「今日も打ち上げで飲み過ぎてしまった」とか「歌詞を書き上げなきゃいけないのに飲んでしまった」みたいな内容が多い。そしてたまに女を匂わせる。

これが大学生活全てのイタさをエモーショナルに変換して発散したがっていた当時の僕にはちょうど良かったのだろう。


椎木知仁は若者が共感するような楽曲を作り出し、ライブにはその若者達がこぞって足を運び、拳を上げて熱狂しているからそのようなブログでも成り立っているのであって、週4でコンビニ夜勤のバイトをこなし、サークルのコピーバンドの練習スタジオに入る資金にしていた僕が同じようなことを書き上げても、イタさを更に加速させるだけであることに当時の僕は気付いていなかった。

全く同じ“jugem”のブログを作り、同じような女々しさを書き連ねようと立ち上がってしまったのだ。



ここまで鮮明に思い出した僕は、jugemのホームページに飛び、お馴染みのIDとパスワードを打ち込んだ。恐ろしいことに1発でログイン完了。


すると【肥溜めちゃん】というタイトルのブログが現れ、記事が2つ3つほどあった。

排泄物を溜める“肥溜め”というワードに愛称をつける当時の僕の中での最大のユーモアだったのだろう。胃酸が出た。


内容は「夜勤前だというのに後輩と酒を飲んでしまって酒気帯びの状態で働いたからしんどい〜」とか「この家を出るまであと2,3ヶ月だというのにヤケに最近は電球だったりボディソープだったりが切れてしまって切ない〜」みたいな排泄物にさえ失礼を覚える内容であった。


ちなみに【肥溜めちゃん】というワードでインターネットの海を泳いだが、僕のスキルでは椎木知仁に憧れた大学4年生が2,3回だけ更新して終了したブログには辿り着かなかったので、もしも見つけた人が居たら連絡してほしい。


せっかく新たに作ったブログなので、「誰も幸せにならない空想肴ゲーム」の話をしようとしたのに【肥溜めちゃん】の話で終わってしまった。